(この記事はnoteで2018年12月16日に書かれました。)
先日、noteメッセージで以下のようなリクエストを頂戴しました。(大意)
「私もブログでマンガの感想を書きたいと思っています。マンガの画像の引用が、著作権侵害にあたらないようにするためには、何に気をつけたらいいでしょうか。出版社から訴えられないような引用の方法を教えてください。」
このリクエストにお応えし、「マンガについての感想、批評の記事」を想定して、「マンガの著作権を侵害しないような引用の方法」と、私の個人的な心構えについて書きたいと思います。
※ご注意※ 私(金田淳子)は法律の専門家ではないので、「確実にこれでOK」とは断言できません。
(1)著作権侵害は親告罪
まず前提として重要なことですが、著作権侵害は「親告罪」です。つまり、権利を侵害された人だけがそれを訴えることができます。権利者が(訴えたら勝てるような)侵害の事実を知っていても、訴えない場合が数多くあり、その背後にはいろいろな意図や商慣習があります。
この記事を読んだ後、私のマンガ感想記事(乙女の聖典~女子こそ読みたい「刃牙」シリーズ)での引用方法を見て、「この部分は著作権侵害にあたるぞ!!」と細かくジャッジしてくださる人がいるかもしれません。このシリーズでの引用方法は、私なりに、著作権以外にも商慣習など、様々なことを考慮した上での判断なので、ジャッジしてくださらなくて大丈夫です。権利者じゃないけど許せないという人は、秋田書店さんに教えてあげてください。
また、SNS等ではしばしば「無断引用」という謎の言葉が飛び交いますが、基本的に「引用」は無断でやるものです。そうでないと事務手続きが煩雑になりすぎて学術研究が成り立ちません。
つまり無断でOK(むしろいちいち尋ねるな)、なのですが、その「引用」が著作権法を侵害していないように、引用者側が十分に気をつけなければなりません。では何に気をつければいいのか、それを以下で説明します。
※2018年12月17日11時追記:2019年から一部の著作権が「非親告罪」化されますが、この記事で扱うような「マンガの感想・批評での引用」については法律上の変化はないと思います。
(2)どんな引用なら、著作権を侵害しないのか
著作権法侵害にならない「引用」についての基準は、こちらのページを主に参考にしました。
福井健策さん 「その「引用」は許されるのか?講義やウェブでの資料配布は?」
このページに(著作権法違反にならないような)「引用の6つの注意点」が挙げられています。マンガについても、この基準がわかりやすいので、この6点に即して説明したいと思います。
① 未公表の著作物は引用できない
② 自分の作品との区別が明瞭
③ 自分の作品がメイン(=主従関係)
④ 自分の作品との関連性
⑤ 改変は禁止
⑥ 出典の表記
ちなみにマンガの引用については、有名な『新ゴーマニズム宣言』事件(東京地裁平成12年4月25日判決)が今も重要な判例(基準となる判例)になっているので、下の頁も参考にしました。
特許業務法人 三枝国際特許事務所さん
「著作権判例 脱ゴーマニズム宣言事件 ときめきメモリアル事件」
これらの記事をふまえて、商業誌で発表されたマンガの、ブログ記事などでの引用について、具体的にどうすればいいのか、私の考えをご説明します。
① 未公表の著作物は引用できない
この記事では、「商業誌(または出版社のHPなど)で発表されたマンガ」の引用について扱いますので、①の論点は問題ないものとします。
② 自分の作品との区別が明瞭
⑥ 出典の表記
マンガの画像を引用する場合、必ず「著者名、作品名」をわかりやすく画像に付記します。出版年、出版社、引用したのはどの頁か、なども書くとより丁寧で、読者が検証するさいに便利であり、好感度が上がります(学術的引用では通常、これらも書きます)。この出典表記は、画像の外の文章ではなく、画像の「中」にあることが望ましいです。
このようなマンガの引用について、「自分の作品との区別が明瞭でない」ような感想や批評が書かれることはほぼ無いのではないかと思います。
「自分の作品との区別が明瞭でない」場合を想像するなら、「マンガ」あるいは「イラスト」の形式で、マンガの批評を行いたい人がいるかもしれません。そのマンガやイラストの中に、マンガを引用したい場合は、模写では改変にあたるので、作品の画像を引用します(後述の⑤の論点に該当)。この場合も、どの部分が自分の作品ではないのかわかりやすく引用し、もちろん出典を表記することが大事です。
またマンガの中のセリフやナレーション、擬音(オノマトペ)等の(絵ではない)ことばを文章内に引用する場合、「 」” “でくくる、行頭を下げるなどして、どこからどこまでが引用なのかわかりやすく記します。その上で、引用の行末や( )や注などで出典を表記します。
③ 自分の作品がメイン(=主従関係)
自分の感想や批評がメインでなければいけません。引用の最も肝要なポイントであり、また著作権侵害の争点となりやすい論点です。極端な例として、マンガ作品ををまるまる引用、または物語がだいたいわかるように逐次引用して、「おもしろかった」「おもしろくなかった」という一言を添えるようなブログなどは、著作権侵害だと訴えられたとき、抗弁しづらいと思います。
これについて、福井健策さんの上記の記事に、「人の作品からの引用はせいぜい全体の数%に」「その部分(引用した部分)だけで鑑賞に向くような引用は危険」という解説があります。
私の考えですが、「マンガ1コマ引用につき、自分の文字数が××文字」のような、単純に量的な基準はそれほど意味がないと思います。あまり関連のないことや修辞を書き加えることで、いくらでも文字は増やせるからです。
個人的に心がけているのは、「この文章(メイン)が嘘ではないことがわかる、必要最低限の引用になっている」(論拠としての引用)こと、または「この文章(メイン)があることによって、引用された部分の読み方が分かる・読み方が変わる」(批評の素材としての引用)の、二つの引用のどちらかになることです。
よい例かわかりませんが、私の書いた『グラップラー刃牙』の感想記事「その9(無料記事)」を見てください。
金田淳子、乙女の聖典~女子こそ読みたい「刃牙」シリーズ、その9(無料記事)
この記事の「(3)平尾さんミステリー」は、文字のみでも構成できるのですが、引用している3つの画像が本文の「論拠」にあたります。
またこの記事の「(1)刃牙さんセクシーグラビア」で引用している2つの画像については、「刃牙さんの描かれ方がセクシーだ」という「批評」をするための素材にあたります。(2)(4)(7)も、私なりの作品の批評・着眼点の素材として引用しています。
ちなみに、この記事で私が「著作権侵害だと訴えられたら負けそう」と思っているのは、「(5)蛍光灯ファイター栗谷川」と「(6)リメンバー・デントラニー・シットパイカー」で、批評というよりは(この二人のキャラを忘れていた人向けの)「紹介」にとどまる内容になっていて、「自分の主張が主・引用が従」という関係が弱いからです。秋田書店さんに耳打ちされたらすぐに画像を下げます。
④ 自分の作品との関連性
自分の作品(そのマンガの感想や批評)と関係なく、「この絵が素敵だから載せよう」という判断は非常に危険です。引用した画像の内容について、文章中で言及しましょう。たとえば、『A』というマンガの感想を書いているから、『A』のどこかの頁を引用するところまではいいのですが、感想の内容と関連しない部分(単に気に入った絵など)を引用するのは危険です。そのマンガの絵が「引用」ではなく、「イラスト」「アイキャッチ」として「使用」されている(無断での二次使用)と判断されることもありえます。
また、内容と関連している場合でも、引用した画像が、自分の作品(ブログ記事など)の「サムネイル」「タイトル画像」になってしまうような配置は避けましょう。これも「イラスト」「アイキャッチ」になっているという判断をされることがあるからです。
特にマンガの感想ブログの場合、「書籍の表紙の画像」をバーンとわかりやすくタイトルに貼りたくなると思いますが、これも現状では、避けたほうが無難です。どうしてもタイトル画面として載せたい場合、「書籍が部屋の中にある」という風景写真として示すのがギリのラインだと思います(確実にOKではない)。
⑤ 改変は禁止
これは「脱ゴーマニズム宣言事件」で争点の一つとなった部分で、現在でもこの判例が基準となっているので、覚えておいて損はないと思います。
マンガを引用する場合、たとえばインターネットに溢れている「コラージュ」のように、絵やセリフを差し替えることは、もちろん著作権侵害になりえます。また「引用」でなければいいだろうということで「模写」を描く人がいるかもしれませんが、改変にあたるので、これも著作権侵害になりえます。
ちなみに「脱ゴーマニズム宣言事件」の判決で、改変がやむを得ないと認められたのは、マンガで描かれた実在人物の「人格的利益たる名誉感情を侵害するおそれが高い」という理由で、顔に書き加えられた黒線(目隠し)です。
気をつけたいのは、レイアウトの都合や読者のわかりやすさを考えて、「コマの位置関係を変えて引用すること(配置変更)」がOKかどうかですが、同判決で一箇所が著作権侵害に該当すると判断されました。これはコマとコマの配置が、感想や批評の内容に関わってくる場合に顕著といえますが、法律の素人にはその判断がつけづらいと思います。なので、面倒なようでも、マンガを引用したい場合、「1ページまるごと」(または見開き2ページまるごと)引用するのが無難だと思います。
私の『グラップラー刃牙』の感想記事では、コマだけの引用、さらにそこに私が(私自身が書いたということがわかるように「赤」で)矢印や文字を書き入れている引用があります。このあたりは微妙なラインだと思うので、秋田書店さんに耳打ちされたら訂正します。
(3)私の個人的な心構えについて
さて、これまで6つの基準にわけて「著作権侵害にならないような、マンガの引用の仕方」を説明してきました。繰り返して書きますが、私は法律の専門家ではないので、「これで完全にOK!」というわけではありません。著作権は親告罪ということもあり、「記事を書いた人による」「権利者による」としか言えないケースが多いです。完全な安心が欲しければ、この分野で高名な弁護士さん(福井健策さんなど)にお金を払って相談するか、または、マンガの引用をやめて自分の文章のみで作品(感想記事)を構成しましょう。
法律上の話はここまでとして、私が「刃牙」シリーズの感想記事で、マンガを引用するときに気をつけていること(心構え)を二点、書いておきます。
まず、マンガの感想記事は「権利者さんにケンカを売っているのではない」ということ。「刃牙」の感想は、この作品を糾弾するために書いているのではなく、一ファンとして良さを広めるために書いています。しかも、後半は有料記事です。ですから、法律上は全く問題ない引用箇所でも、秋田書店さんからご注意を頂くことがあれば、もちろん削除することにやぶさかではありません。
次に、「権利者さんにわざわざ尋ねない」こと。上に、完全な安心を得たければ弁護士に……云々と書きましたが、ここで「逐一、権利者さんに尋ねて、許可を得てから、引用すればいいのでは?」と思った人がいると思います。
しかし日本のマンガ出版社の現状からして、個々人が、メールでテキスト等を送りつけ、このように御社の著作物を引用してブログを公開していいですか、という問い合わせをし、適切な人物から良い返事が戻ってくる確率はかなり低いと思います。逐一対応が面倒なので、出版社によっては「一率、返事を保留する」という場合もあると思います。このあたりは(特に18禁の)「二次創作」に対して出版社がどのような対応をしているか(いちいち聞かれたらダメと言うしかないので、自由にやってほしいと思っている)と、かなり近いと思います。
そういうわけで、「偶然にもSNSで権利者と仲良くなった」場合などを除き、いちいち権利者に尋ねて許諾を貰うという行動は、やめたほうが現実的だと思います。
ちなみに商業メディアで、マンガの感想、批評などが含まれる書籍や記事を出版する際、そこにマンガを引用したい場合は、多くの場合、権利者に許可を取っていると思います。(ここで出版社の規定によっては、引用1点につき5000円ほど支払ったりします。)許可がとれなかった場合には、法律上問題がなくても、通常は(どうしても批判したい場合などを除き)引用を差し控えることが多いと思います。「引用は無断でOKのはずではなかったのか」と思われるでしょうが、主に学術分野で作られてきた「引用」の作法とは全く別の話として、商業出版物にマンガの画像を入れたい場合、一般的に、商慣習として許可を取ることになっているのです。(もちろんそのような手続きをとらないケースもありますが。)
ただし先に書いた通り、個人ブログなどでいちいちそれをやるのは非効率、かつ、かえってよい結果が得られないと思われます。あくまでこれは商業メディア間のやりとりです。
※2018年12月17日14時追記:この記事を書くときに、引用によって「訴えられない」さらに「人間関係が損なわれない」ことを意識していたので、商業メディアにおける、他の商業メディアからの引用について「許可を取る」という商慣習を、既成事実のように書きすぎたと思います。それぞれの立場がありますので、個別に判断しているという現状だと思います。
(4)どんどん感想を書こう&引用しなくても書けるんだよ!
ここまで恐ろしげなことを書いてきたので、「こわっ」と思われた方もいると思いますが、おそらくほとんどの商業マンガの権利者は、「ブログとかにマンガの(肯定的な)感想をじゃんじゃん書いてほしい……いちばんキャッチーな良いページを、ガッツリと引用してほしい……」と考えていると思います。売り上げにつながる可能性があるからです。
ですから、法律上の注意点(および自分が記事を書くブログサービスなどの規定)を守りさえすれば、マンガの権利者から、感想や批評の記事に対して、引用画像や記事そのものを削除しろ等と言われることは(あまり)ないと思います(個人の考えです)。特に、マンガの魅力のうち最大のものともいえる、「絵柄」の魅力を伝えるときには、どうしても引用が必要になると思います。ネタバレにならない程度に、これぞという箇所を引用し熱弁して、記事を読んだ読者に、「このマンガを読みたい!」という気持ちにさせましょう。
最後に、ここまで書いておいてアレですが、「引用は、適度にほどよく」「引用は閲覧数に相関しない」ということをお伝えしたいです。
というのも、これは「刃牙」という超有名作品だからかもしれませんが、私の感想記事のデータを見る限り、「たくさん画像を引用した記事のほうが読まれやすい、売れやすい」といった相関関係はないと思います。「その2」は画像の引用をしていないのですが、有料記事の全体の中で一番読まれ、購読されているのは、「その2」です。
もちろん引用をすると、しないよりも、書けるネタの幅が広がります。しかし当たり前の話ですが、読者は「画像が引用されているから読む」わけではありません。そんなに画像が見たければ「刃牙」を買えばいいのですから。
「感想記事」の主役は、題材となるマンガではなく、それを書く「あなた」です。私自身も、「他人の描いたおもしろいコマを、文脈とか関係なく、一発ガツンと”引用”して、ラクにウケたい」という気持ちになるたび、このことを思い出したいと思います。
(おわり)
よかったら「刃牙」を読んで頭がおかしくなった女の、感想記事も読んでくれよな! 記事の感想をツイートしてくれるのも嬉しいんだぜ!
→乙女の聖典(その1)(無料記事)
「刃牙」シリーズ感想記事「乙女の聖典~女子こそ読みたい刃牙シリーズ」は、noteで連載しています。よかったら読んでね! すべて前半は無料、後半100円です。